「嘘」と「冗談」のあいだ

娘から「嘘」と「冗談」の違いは何かというご下問を頂戴する。


う〜ん。僕はこの二つの違いを一体どのように仕分けているのだろうか。


「嘘」は、自分が物事を相手に伝えるときに、事実ではないことを分かっていて伝える言葉そのもの。主に過去を対象としている。
「冗談」は、事実とは違うことを言っているというところで嘘と似ているけれど、それとはどこかが違う。


結局そのときは、「どこか」が説明不能であったが、少し考えてみることにする。


「嘘」は過去に起きた確定的なことを違って伝えることであり、「冗談」は過去の確定的なことも未来に起こるだろうことも射程に含まれている、といったところだろうか。
例えば「明日雪がふるんだってよ〜」と夏の暑い時の言葉は、「冗談」であっても「嘘」にはならない。さらに「昨日俺んち雪が降ったんだぜ」と同じく夏の暑い時に言った場合、「冗談」にもなりうるし「嘘」にもなりうる。


このへんの言葉の取り扱いは、少々難しい。


為政者の言葉が事実と違う場合に、よくメディアで「嘘つき」って言うけれど、例えば原発事故の状況を違うように伝えるのは「嘘」だが、マニュフェストが実現できなかった場合は「嘘つき」ではない。「マニュフェストでそう謳っているじゃないか、何故実現できないのだ、嘘つき」というのは「嘘つき」ではないと思う。
まあ確かに、為政者は「必ず実現してみせます」と言っているかもしれない。それなら「嘘つき」になるかもしれない。しかし、発言者のナイーブさを差し引いて考えるなら、そもそも「必ず実現するマニュフェスト」など存在しないのだから、嘘つきというのは少々言い過ぎのような気がする。このパターンの「嘘つき」が成立してしまうと、後出しジャンケンが有りになってしまう。「嘘つき」が適応される状況というのは、極めて限られた場合ということだと思う。


さらに考えを邪悪にしてみると、唯一無二の真実というものも存在しない。過去は常に改変され続ける。すると、過去を語るとき、人は必ず「嘘つき」になる。過去の物事を全く正確に、ブレることなく伝えることなど不可能だからである。